一級建築士、一級建築施工管理技士他様々な建築系資格を取得。ゼネコンで様々な業務を経験しながら一級建築士試験で苦労した経験を活かし、一級建築士試験を攻略するブログを運営。建設を学ぶ専門サイトの立ち上げ経験もあり。サッカーとお笑いが好き。フットサルとギターを嗜む。著書「学び直しの一級建築士」
階段は、住まいの中で重要な役割を担っています。しかし、老朽化により安全性が低下したり、家族構成の変化などによって使い勝手が悪くなったりすることがあります。
そのような場合は、階段リフォームを検討してみてはいかがでしょうか。階段リフォームには、安全性や利便性、デザイン性を高めるさまざまな方法があります。
本記事では、階段リフォームのポイントと費用相場、そして事例をご紹介します。階段リフォームを考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
階段リフォームの目的
階段は、住まいの中で頻繁に利用される場所です。そのため、安全性や利便性、デザイン性など、さまざまな観点からリフォームの検討が行われます。
安全性を高める
階段リフォームの目的として最も重要なものの一つが、安全性を高めることです。階段は、転倒や滑落などの事故につながりやすい場所です。特に、高齢者や子ども、足腰の弱い人が住む家庭では、安全対策が欠かせません。
安全性を高めるリフォームとしては、以下のような方法が挙げられます。
- 手すりの設置
- 滑り止めの設置
- 勾配の緩和
- 段数を増やす
- 照明や採光窓の増設
これらの点を踏まえて、適切なリフォーム方法を選択するようにしましょう。
手すりの設置
手すりは、階段の昇り降りをサポートし、転倒を防止する効果があります。手すりは、両側に設置するのが原則です。また、手すりの位置は、握りやすい高さにする必要があります。
滑り止めの設置
外部階段は、雨や雪で濡れたり靴底が汚れたりすると、滑りやすい状態になります。内部階段であれば滑り止めの付いていない靴下やスリッパのまま歩行すると滑りやすくて危険です。
リフォームで階段に滑り止めを設置することで、滑落のリスクを軽減することができます。滑り止めには、シートやテープ、マットなど、さまざまな種類があります。
勾配の緩和
階段の勾配が急すぎると、転倒しやすくなります。古い住宅の階段は、急勾配で危険な場合が多いです。
リフォームによって勾配を緩和することで、転倒のリスクを軽減することができます。勾配を緩和するには、階段の段数を増やす、踏み面の幅を広げるなどの方法があります。
段数を増やす
階段の1段の高さが高すぎると、昇り降りが困難になります。段数を増やすことで、1段の高さが低くできるため昇り降りがしやすくなり、転倒のリスクを軽減することができます。
照明や採光窓の増設
階段の明るさを確保することも重要です。階段は段差による影で足元が暗くなりがちです。足元が暗いと、段差がよく見えず転倒しやすくなります。
リフォームで階段の照明を増設したり、窓を設置したりして、足元を明るくすることで、転倒のリスクを軽減することができます。
利便性を高める
階段リフォームの目的として、利便性を高めることも挙げられます。階段は日常生活の中で毎日使う場所のため、使い勝手を良くすることで、生活の質を向上させることができるでしょう。
階段の利便性を高めるリフォームとしては、以下のような方法が挙げられます。
- 階段の幅の拡大
- 踊り場の設置
- 収納スペースの設置
これらのリフォームを行うことで、階段の昇降や荷物の運搬がしやすくなり、生活の利便性を向上させることができます。
階段の幅の拡大
階段の幅が狭いと、人ひとりの昇降には支障なくても荷物を運搬しにくくなります。外部階段であればベビーカーや車椅子を持って上がることもあるかもしれませんが、幅が狭いとそれらの運搬も困難になります。階段の幅を広げることで、荷物やベビーカー、車椅子などの運搬がしやすくなります。
1階にベビーカーが収納でき、車椅子使用者の動線も1階のみで完結しているのなら問題ありません。ですが、住宅の構造や間取りなどの事情でベビーカーや車椅子を階段で運ぶ必要がある場合は、階段の幅を広くすることを検討してください。
踊り場の設置
踊り場を設置することで、荷物の運搬や階段の昇降がしやすくなります。昇降の途中で休憩することもできるので、踊り場があると利便性が高まるでしょう。
階段から滑り落ちた際も踊り場があれば踊り場で止まるので、安全性も高まります。
収納スペースの設置
階段の下は、デッドスペースになりがちです。家の中に収納が不足しているなら、階段下を収納スペースにしない手はありません。階段下の収納スペースは、本棚や衣装収納、シューズボックスなど、さまざまな用途で活用できます。
デザイン性を高める
階段は、住まいの印象を左右する重要な要素の一つです。そのため、デザイン性を高めることで、住まいの雰囲気をより良くすることができます。
デザイン性を高めるリフォームとしては、以下のような方法が挙げられます。
- 階段の素材や色の変更
- 階段の形状やデザインの変更
- 照明の設置
これらのリフォームを行うことで、階段をよりおしゃれに、個性的にすることができます。
階段の素材や色の変更
階段の素材や色を変えることで、階段の雰囲気を大きく変えることができます。
たとえば、木製の階段をタイルや石材に変更することで、モダンな雰囲気にすることができます。また、階段の色を明るい色にすることで、暗くなりがちな階段を爽やかな雰囲気にすることが可能です。
階段の形状やデザインの変更
素材や色を変えたくない場合、階段の形状やデザインを変えるのもおすすめです。
たとえば、一般的な直階段かららせん階段に変更することで、個性的な雰囲気にすることができます。また、階段に窓や飾り棚を設置することで、華やかな雰囲気になるでしょう。
照明の設置
階段の照明を設置することで、階段の雰囲気は変わります。
たとえば、間接照明を設置すれば柔らかい雰囲気になりますし、ペンダントライトやシャンデリアを設置すれば豪華な雰囲気にすることができます。
階段リフォームのポイント
階段のリフォームに挑戦したいと思っても、具体的に「何に気を付けたら良いのか」が分からない方も多いでしょう。
ここからは、建築基準法の基準、リフォームのタイミング、安全性などの観点から、階段リフォームのポイントを解説します。
建築基準法の基準
階段リフォームを行う際には、建築基準法の基準を守る必要があります。建築基準法では、階段の蹴上、踏み面の幅、勾配などの基準が定められています。
- 階段の幅:踏み面(階段で足をのせる1段の奥行き)が15cm以上、階段の横幅は75cm以上
- 階段の勾配:蹴上(踏み面の端から次の踏み面の端までの高さ)が23cmの場合、踏み面の長さが15cm以上
- 踊り場の幅:踊り場の幅は、75cm以上
これらの基準は、階段の安全性を確保するためのものです。階段リフォームを行う際には、必ず建築基準法の基準を守るようにしましょう。
リフォームのタイミング
階段の老朽化が進んでいる場合は、安全のために早めにリフォームを検討しましょう。
一方で、階段リフォームのタイミングは階段が老朽化したときだけではありません。
家族構成の変化やライフスタイルの変化によって、階段の使い勝手が悪くなった場合も、リフォームを検討するとよいでしょう。たとえば、子どもが生まれたり、高齢の親と同居するようになったりした場合が該当します。
子供が生まれた場合は、子供が家中を縦横無尽に移動するようになります。子供が階段から落下しないよう、階段の上下に柵の設置を検討するのがおすすめです。子どもが自分で階段を上り下りするようになる前に、滑り止めを設置するのもよいでしょう。
高齢の親と同居する場合、親は加齢によって足が上がりづらくなり、昔ならすいすい登れた急勾配の階段も、1段ずつ登ることすら難しくなっているかもしれません。そういった場合は、階段の勾配を小さくするタイミングです。
安全性
階段リフォームにおいて最も重要なポイントは、安全性の確保です。階段は、転倒や滑落などの事故につながりやすい場所です。そのため、手すりの設置や滑り止めの設置など、安全対策をしっかりと行う必要があります。
手すりは、両側に設置するのが原則です。また、手すりの位置は、握りやすい高さにする必要があります。手すりがあってもすごく高い位置に設置されていたり、逆に低すぎる位置に設置されていても安全に利用できません。
一般的には75cmから85cmの高さが握りやすいです。身長の低い子どもがいる場合は、60cmから65cmの高さで検討します。子どもがいる家庭では手すりを2段にすることも珍しくありません。
滑り止めは、シートやテープ、マットなど、さまざまな種類があります。階段の使用状況や好みに合わせて、適切な滑り止めを選ぶようにしましょう。
また、記事の前半でも紹介したとおり、階段の明るさも重要です。足元が暗いと転倒しやすくなるため、照明や窓の増設により足元を明るくすることで、安全性を向上させることができます。
なお、階段の色が均一だと、段差の位置がわかりにくく危険です。段差部に明暗差のある塗装をしたり、違う色の素材を使用したりすることで、安全性を高めることもできます。
勾配と間取り
勾配を緩やかにする方法としては、階段の段数を増やす、踏み面の幅を広げるなどの方法があります。蹴上が22cmの場合、踏み面の長さが15cm以上であれば、建築基準法の基準を満たすことができます。
しかし、基準を満たしていれば使いやすいというものではありません。法律は最低限度を決めているだけですので、使いやすい階段にするには蹴上を下げて踏面を広げると良いでしょう。
高齢者や障害者がいる場合は、踏み面の長さを30cm以上にすると、より安全に昇降することができます。
なお、注意が必要なのが「間取り」との関係です。踏面を広げれば、勾配が緩くなり、階段が長くなります。そうなれば間取りの変更も検討が必要です。勾配を緩やかにするために間取りを変更する必要があるかどうか、事前に確認しておきましょう。
階段リフォームの費用相場
階段リフォームの費用は、リフォーム内容や工法によって大きく異なります。以下に一例を挙げますので、参考にしてください。
手すりの設置
手すりの設置は、階段リフォームの中で最も費用が安い工事の一つです。手すりの種類や長さによって費用は異なりますが、おおむね1万円~5万円程度が相場です。
- 木製手すり:1万円~5万円
- ステンレス製手すり:2万円~10万円
- アルミ製手すり:3万円~15万円
階段の部材交換
階段の部材交換は、階段の老朽化や、デザイン性向上のために行う工事です。階段の素材や部材によって費用は異なりますが、おおむね10万円~50万円程度が相場です。
- 木製階段の踏み板交換:30万円程度
- タイル階段の踏み板交換:50万円程度
- 石材階段の踏み板交換:80万円程度
急な階段を緩やかに
急な階段を緩やかにするには、階段の段数を増やす、踏み面の幅を広げるなどの工事が必要です。階段の形状や構造によって費用は異なりますが、おおむね50万円~100万円程度が相場です。
- 段数を増やす:50万円~100万円
- 踏み面の幅を広げる:70万円~150万円
階段の位置を替える
階段の位置を替えるには、壁や床の解体工事が必要になるため、費用が高くなります。階段の構造や規模によって費用は異なりますが、100万円~300万円程度が相場です。
- 階段の撤去:100万円~200万円
- 階段の新設:100万円~300万円
カバー工法
カバー工法は既存の階段の上に、新しい階段を造り付ける工法です。既存の階段を解体する必要がないため、費用を抑えることができます。階段の構造や規模によって費用は異なりますが、10万円~30万円程度が相場です。
- フローリング階段:15万~30万円
- フロアクッションの階段:3万~5万円
滑り止めの設置
滑り止めの設置は、階段の安全性向上のために行う工事です。滑り止めの種類によって費用は異なりますが、おおむね5万円~10万円程度が相場です。
- シートタイプ:5万円~10万円
- テープタイプ:3万円~5万円
- マットタイプ:10万円~20万円
階段リフォームに使える補助金
階段リフォームは、安全性や利便性を高めるために有効な方法です。しかし、階段リフォームには費用がかかることから、リフォームを先送りにしている方もいるかもしれません。そのような場合は、補助金制度を活用して費用を抑えることも検討してみてはいかがでしょうか。
階段リフォームに使える補助金には、大きく分けて「バリアフリーリフォーム減税制度」と「バリアフリーリフォームの補助金制度」の2種類があります。
バリアフリーリフォーム減税制度
バリアフリーリフォーム減税制度は、国税庁が実施している制度です。バリアフリーリフォームを行った場合、所得税の控除や固定資産税の減額などを受けることができます。
控除額は、リフォーム費用の10%で、上限は50万円です。控除期間は、リフォーム工事完了年の翌年から10年間です。
バリアフリーリフォーム減税制度の対象となるリフォームは、以下のとおりです。
- 高齢者や障害者などの安全や利便性を向上させるためのリフォーム
- 階段の段数を減らす、段差をなくす、手すりや滑り止めを設置するなどの工事
具体的には、
- 通路を拡張して車椅子で移動できるようにする
- 既存の階段を撤去して勾配を緩やかにする
- 介護が楽にできるように浴室を広くする
- 和式便器を多機能な洋式便器に変更する
- 壁の下地を補強して手すりを取り付ける
- 敷居を下げて段差を解消する
- 出入り口の開き戸を引き戸や折れ戸、アコーディオンカーテンに取り替える
- 滑りにくい床材に張り替える
といった工事が該当します。
ご自身が検討している工事内容がバリアフリーリフォーム減税の対象となっているか不安な場合は、専門工事業者や税務署の担当者に相談してみてください。
バリアフリーリフォーム減税制度は、2024年1月18日現在の情報だと所得税は令和7年12月31日まで延長、固定資産税は令和6年3月31日まで適用すると発表されています。
また、バリアフリーリフォーム減税制度の対象には複数の条件が設定されています。
たとえば、
- リフォームを行う方が所有し、居住している
- リフォーム後の家屋の床面積が50㎡以上
- 併用住宅の場合はバリアフリーリフォーム後の家の床面積の1/2が自分の居住用
- 工事費用が100万円以上
- その年の合計所得額が3000万円以下
- リフォームの日から6ヶ月以内に住んでいる
といった条件があります。
バリアフリーリフォーム減税制度の利用を検討している場合は、最新の情報を国税庁から取得してください。
ご自身やご自宅がバリアフリーリフォーム減税の対象となっているか不安な場合は、専門工事業者や税務署の担当者に相談してみましょう。
バリアフリーリフォームの補助金制度
バリアフリーリフォームの補助金制度は、各自治体が実施している制度です。自治体によって補助金額や補助対象となるリフォーム内容が異なります。
バリアフリーリフォームの補助金制度の対象となる基本的なリフォームは、以下のとおりです。
- 高齢者や障害者などの安全や利便性を向上させるためのリフォーム
- 階段の段数を減らす、段差をなくす、手すりや滑り止めを設置するなどの工事
具体的には、バリアフリーリフォーム減税の対象工事とほとんど同じです。自治体によって対象工事は変わりますので、最新の情報はお近くの自治体や専門業者に確認してみてください。
補助される金額も自治体によって異なります。たとえば大阪市なら、対象となる高齢者本人が市民税非課税であるが世帯は課税世帯の場合、工事費用の内5万円まで支給されます。
具体的な支給条件も自治体によって異なるので、バリアフリーリフォームの補助金を検討している場合は、専門業者や自治体に確認してみましょう。
一般的には、補助金の支給を受けるには施工前に申請が必要です。「リフォームをしたから」と施工後に申請しても補助金はもらえないことがあります。
申請のタイミングによっては支給されないこともありますので、リフォームを検討し始めたらまずは補助金の相談だけでも専門工事業者や自治体にしておくことをおすすめします。
リフォームがいくらかかるか分からない場合は、HDCのような複数のリフォーム会社が入居している施設で相談すれば、見積もりも一度に済むので便利です。
階段リフォームの事例
階段リフォームは重要だと分かっていても、イメージが湧かない方もいるでしょう。ここからは、階段リフォームの具体的な事例をご紹介します。
回り階段から階段の踏面が広い直階段に
【Before】
【After】
画像:ナサホーム
回り階段には、省スペースに設置できるというメリットがありますが、踏み面が狭いため、転倒のリスクが高まります。この事例では、階段の踏面が広い直階段にリフォームすることで、安全性を高めることができました。
直階段は回り階段よりもスペースが必要ですが、昇降しやすく、開放感もあります。
側壁をオープンにして開放感を演出
【Before】
【After】
画像:ナサホーム
階段は、室内の多くの面積を占めるため、開放感を損なう原因になることもあります。今回の事例では階段の側壁をオープンにすることで開放感を演出しました。開放感が出るだけでなく、廊下や階段、部屋を広く見せたり、明るさを確保したりすることができます。
デザインを統一
画像:ナサホーム
階段は、住まいの印象を大きく左右する要素の一つです。そのため、階段のデザインを統一することで、住まい全体のデザイン性を高めることができます。
階段のデザインを統一する方法としては、階段の素材や色を、床や壁の素材や色と合わせる方法があります。また、階段の照明や手すりのデザインも統一するとより効果的です。
ロフトへの階段を吹き抜けに
【Before】
【After】
画像:ナサホーム
ロフトへの階段は、狭くて暗くなりがちです。そのため、階段の周りを吹き抜けにするなどして、開放感を出すのがおすすめです。
今回の事例では階段下をウォークインクローゼットにして収納も増設しました。
まとめ「階段リフォームで安全で便利でおしゃれな階段を実現しよう」
階段リフォームは、住まいの安全性や利便性、デザイン性を向上させるために有効な方法です。階段リフォームを行う際には、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 安全性を高める
- 利便性を高める
- デザイン性を高める
階段リフォームの費用は、リフォーム内容や工法によって大きく異なります。ご自身の予算や目的に合わせて、適切なリフォーム方法を選択するようにしましょう。
また、階段リフォームに使える減税制度や補助金制度もあります。減税制度や補助金を利用することで、費用を抑えることも可能です。
階段リフォームは、住まいの価値を高める効果もあります。安全で便利でおしゃれな階段を実現して、快適な住まいづくりを実現しましょう。
具体的なリフォーム事例を参考に、ご自身の住まいに適したリフォーム方法を検討してみてはいかがでしょうか。
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