二級建築士・マンションリフォームマネージャー 設計事務所を経て、ハウスメーカーでリフォーム専門の営業設計を担当。10,000人が利用するネットショップの運営経験もあり。38歳での結婚を機に地方に移住。現在は「建築士ライター&主婦ライター」として活動する一方、自身のブログ運営も開始。夫・子どもと爆笑しながら、楽しくほっこりとした日々をおくっています。
注文住宅を検討するとき、費用の目安として「坪単価」を参考にするのが一般的です。しかし、広告などにある「坪単価で計算した総工費」と工務店やハウスメーカーから「提示される実際の見積金額」が大幅に異なり、困惑する方は多いようです。
この記事では、注文住宅の坪単価について
- 基本的な考え方
- 計算方法
- 費用をおさえる方法
- 見落としがちな注意点
などを解説します。
坪単価のポイントをおさえることで、納得のいく施工店選びができますよ。ぜひ参考にしてくださいね。
坪単価とは
坪単価とは1坪(約3.3㎡・タタミ2枚分程度)あたりの建築費のことで、注文住宅の建築費用の把握に用いられ、家を建てるときの予算の目安になるものです。
注文住宅の建築や住宅ローンの借入を検討するには、坪単価の基本的な考え方を理解しておく必要があります。
坪単価の考え方
坪単価は、家の本体価格(建物そのものにかかるお金)を坪数(延床面積)で割って算出します。
例えば、2階建ての本体価格が2,500万円で、延床面積が50坪の場合の坪単価は
2,500万円 ÷ 50坪 = 50万円
となります。
しかし、住宅の価格を坪単価だけで「高い・安い」と判断するのは危険です。
坪単価の計算式でつかう「本体価格」や「延べ床面積」には定義がなく、それぞれに含まれる項目は施工店で異なります。坪単価は、設備のグレードや家の形状などでも大きく変動するので注意しなければなりません。
坪単価は、予算を決める「ひとつの指標」であり、同じ坪単価でも住宅会社で内容が異なることを頭に入れておきましょう。
坪単価に含まれないもの
家づくりでは、建物の本体以外にも費用がかかります。
本体価格以外の費用は以下の2つです。
- 別途付帯工事費
- 諸費用
これらは坪単価には含まれていない費用です。坪単価だけに注目し、大幅に予算オーバーしてしまうことのないように注意してください。
別途付帯工事費
工事には、本体工事と別途付帯工事の2種類があります。
本体工事は「家の建築費・基礎工事・塗装工事・設備工事」などで、費用は本体価格に含まれます。
別途付帯工事は「屋外工事の費用や建物に付帯する費用」など、建物本体以外にかかる工事費用のことです。具体的な内容には、「地盤工事・インテリア工事・外構費用・ガス工事費用・水道の引き込み費用」などのことをいいます。
一般的に、別途付帯工事にかかる費用は、家づくりの費用全体の2割程度です。別途付帯工事費は家の立地条件によって大幅に異なるため、土地の選び方次第では費用を抑えることができます。
諸費用
諸費用とは、直接的な工事費用とは異なる費用で「登記費用・印紙代・ローン手数料・火災保険料・仮住まい費用」などのことを指します。
諸費用の目安は、家づくりの費用全体の1割程度です。諸費用は、住宅ローンを組むかどうかなどでは変動しますが、登記費用や印紙代など固定的な費用が多いのも特徴です。諸費用を抑えることは難しいといえるでしょう。
坪単価の計算方法
ここでは、坪単価の計算方法を例をつかって解説します。坪単価を簡単に計算できるツールも紹介するので、ぜひ参考にしてくださいね。
坪単価の計算式
坪単価の計算式は以下のとおりです。
「坪単価=建物の本体価格÷坪数(延床面積)」 ※単位換算をする場合
- 坪数を平米に換算:坪数 ÷ 3.30578
- 平米を坪数に換算:平方メートル × 0.3025
例えば、「本体価格が2,000万円で、延床面積が50坪の注文住宅」の場合、この家の坪単価は「2,000万円 ÷ 50坪 = 40万円」となります。
坪単価を簡単に計算する方法
坪単価を瞬時に算出できるツールを用意しておくと、自分で計算する必要がなく便利です。
ここでは、坪単価の計算を簡単にする2つの方法をご紹介します。
- アプリや他のWebサイトを使う
- エクセルを使う
アプリや他のWebサイトを使う
アプリやWebサイトでは、坪単価や平米単価をすぐに割り出してくれるものがあります。価格や土地面積、住宅の延べ床面積を入力するだけなので、初心者でもすぐに坪単価を算出することができます。
単位変換も可能なものが多く、坪や平米などの「単位」を選ばないところも魅力の一つです。無料で使えることも多いので、スマートフォンなどですぐにつかえるようにしておくと、気になったときにいつでも坪単価を計算することができますよ。
エクセルを使う
エクセルでは、関数や計算式を利用して坪単価や平米単価を計算することができます。
「事前に計算式を入力しておく」などの手間は必要ですが、いちど準備しておけばセルに数値を入力するだけで、簡単に坪単価を算出することができます。
家づくりの総費用の計算式
前述したように、本体価格は家づくりの総費用を示すものではありません。
家づくりの総費用の計算式は、以下のようになります。
「総費用=本体価格+別途付帯工事費+諸費用」
注文住宅の本体価格は総費用の75~80%程度といわれているので、本体価格が分かれば、家づくりの概算金額の目星をつけることができて便利です。
例えば、家の本体価格が総費用の80%だとすると総費用は「2,000万円 ÷ 0.80 = 2,500万円」と算出できます。
つまり、本体価格が2,000万円の家の場合、「2,500万円あれば注文住宅が建てられそうだ」と予想することができますね。
坪単価をおさえるポイント
予算オーバーになりそうな時は、前もって施工店に予算を明確に伝え、「コストをおさえたい」という意思をはっきりと示すことが大切です。
しかし、それでも思っていたより予算オーバーになる場合があり、どうしたら費用を削減できるか悩む方は多いことでしょう。
ここでは、坪単価をおさえる方法を紹介します。
- 外観や間取りをシンプルにする
- ドアを減らす
- 壁をつくらない
- 仕様のグレードを見直す
- 水回りをまとめる
- 部屋で内装のグレードを使い分ける
- 和室はつくらない
上記は、施工業者がコストカットをするときによく行う方法です。ぜひ参考にしてくださいね。
【ポイント1】外観や間取りをシンプルにする
「外観を総二階建てにする」「屋根は片流れにする」など、家をシンプルな形にすることで費用は大幅に抑えることが可能です。
同じ床面積でも、間取りや外観の形が複雑なほうが「壁量・構造補強・工賃・資材」などが増え、坪単価は高くなります。
特に、住宅の構造部分である基礎・屋根・外壁などは、形状によって費用が大きく変わってきます。
坪単価をおさえたいなら、なるべく凹凸の少ない設計にすることが重要です。複雑な形よりシンプルな形にした方が耐震性にも優れているので、コスト以外の面でもメリットがありますよ。
【ポイント2】ドアを減らす
坪単価を削減したいなら、ドアの数を減らすのが簡単で効果的です。何もかもドアで仕切ってしまいがちですが、少し工夫するだけでドアが必要ないケースもあります。
夫婦の寝室にあるウォークインクローゼットは、扉をなくしたほうがスムーズに出入りできて便利になる可能性もあります。作り付けの本棚は、扉を取っ払って「見せる収納」にしたほうが、使い勝手がよくなるかもしれません。
ライフスタイルにもよりますが、間取りや使い方次第で「扉を省いても問題ない状況」は作り出せます。ぜひ、担当者や設計士に相談してみてくださいね。
【ポイント3】壁をつくらない
適切な壁の量は、耐震はもちろんですが、プライバシーがどれほど必要かによって変わってきます。
坪単価を削減したいなら、壁を減らし、部屋を「家具で仕切る」のも一つの方法です。家具で仕切った方が、ライフスタイルの変化に対応もしやすくなります。
仕事内容にもよりますが、書斎はリビングの一角につくるほうが、家族とのコミュニケーションもとりやすく便利な場合があります。子供部屋は、間仕切り壁をなくして家具で仕切ったほうが、いずれ独立したときに改修なしに広い部屋にできて助かるかもしれません。
壁をつくるかどうかは
- 開放的な空間にしたいか
- 将来は部屋を広げる可能性があるのか
なども考慮すると、思わぬところでコストカットができる場合もありますよ。
【ポイント4】仕様のグレードを見直す
坪単価は設備費用のグレード次第で大きく変わってきます。設備費用は本体価格の20~30%程度を占めるのが一般的です。坪単価を減らしたいなら、設備の仕様を見直してみましょう。
グレードの高い設備機器は、デザイン性や機能性に優れているので魅力的ですが、坪単価を押し上げる大きな要因になりがちです。ショールームなどへ見学に行けば、誰でもついつい高品質なものを選んでしまい、いつの間にかびっくりするような金額になっていることも少なくありません。
設備機器には様々なグレードがあるので、見積をとるときは「松竹梅」の3パターン程度を用意してもらうのがオススメです。グレードを比較しながら詳細を決めていけるので、冷静になることができます。
後悔しないように、設備機器を選ぶときは、そのグレードが自分や家族にとって「どのくらいメリットをもたらすか」を考えて選ぶようにしましょう。
【ポイント5】水回りをまとめる
お風呂やトイレなど水回りの位置を一つにまとめると、給排水設備の工賃や資材を削減できるため、コストダウンに繋がります。水回りを集中させたほうが動線が短くなり家事がラクになりますよ。
【ポイント6】部屋で内装のグレードを使い分ける
坪単価は、内装によっても大きく影響されます。家の内壁をすべて漆喰にしたり、床にすべて無垢フローリングをつかったりすると、材料費や工賃は一気に跳ね上がります。
オススメなのは、内装のグレードは家全体ではなく、リビングやキッチンなどポイントを絞って重点的にこだわる方法です。
お気に入りの内装を家全体に取り入れると、施工面積が多すぎてあっという間に高額になりがちですが、一部であれば予算オーバーにならずにすむ場合があります。
【ポイント7】和室はつくらない
床の間や立派な床柱などがある和室は、資材や手間が洋室よりも割高になりがちです。和室が絶対に必要でなければ、和室をつくらず洋室だけにするという選択肢もあります。
タタミだけが欲しい場合は、洋室の一角にタタミスペースをつくるなど、コストがかからない方法を検討してみるのがオススメです。
坪単価を確認するときに注意すること
前述したように、坪単価をそのまま数値で判断するのは危険です。坪単価はあくまで目安で、その家の内容すべてを把握することはできません。
坪単価を確認するときに混乱しがちなのが、以下の3つです。
- ハウスメーカーによって坪単価の計算方法が異なる
- 坪単価は仕様によって大きく変動する
- 延床面積が小さいと割高になる
勘違いしないように、しっかりと理解しておきましょう。
【注意点1】ハウスメーカーによって坪単価の計算方法が異なる
坪単価は「坪単価=建物の本体価格÷坪数(延床面積)」で算出するのが基本ですが、絶対的なルールがないため、ハウスメーカーによって「項目に含まれる内容」が異なります。
違いが出るのは下記の2点です。
- 本体価格に含まれる内容
- 床面積の範囲
それぞれを解説していきます。
本体価格に含まれる内容
本体価格は、建物に直接的に関わる費用です。しかし、この定義はあいまいなため「本体価格にどこまでの費用を含めるか」はハウスメーカーや工務店によって異なります。
本体価格が同じ家でも、「A社では照明の費用を含んでいるが、B社では含んでいない」など、施工店によって「含まれる工事内容が異なること」に十分に注意してくださいね。
床面積の範囲
坪単価の計算式でつかわれる「延べ床面積」を、一部の施工店では「施工面積」で算出している場合があります。
施工面積とは「ベランダ」や「玄関ポーチ」などを含む面積で、延べ床面積には含まれない面積も加算されます。「施工面積で算出した坪単価」は「延べ床面積で算出した坪単価」よりも安価なので、同じ家でもお得に感じやすく注意が必要です。
【注意点2】坪単価は仕様によって大きく変動する
同じ外観や間取りでも、どんな材料や設備をつかっているかで坪単価は大きく変動します。
例えば、すべての部屋に無垢フローリングを貼ると、材料費や工賃が大幅にアップします。セラミックのキッチンカウンターや海外製の食洗器を選べば、追加費用が数十万円程度は必要になるでしょう。
逆に、同じ坪単価でも、住宅会社によって仕様グレードがまったく異なります。坪単価だけで「高い・安い」を判断しないようにしましょう。
【注意点3】延床面積が小さいと割高になる
延床面積が小さければ、費用は安価にあると思いがちですが、坪単価は延床面積が小さくなるほど割高になります。
延床面積を小さくしても、キッチンやお風呂などの住宅設備機器は必要不可欠です。延床面積を小さくしても、住宅設備機器を減らすことができないため、本体価格が大幅に下がらずに、坪単価は高くなってしまう可能性があります。
坪単価の相場
注文住宅の坪単価は「83~95万円程度」です。
坪単価の相場の差が出る理由は、以下の3つです。
- 地域性の違い
- 施工業者の違い
- 構造の違い
それぞれを詳しくみていきましょう。
地域性の違い
注文住宅の坪単価は地域で異なり、首都圏の坪単価は「89~102万円程度」と全国の相場よりも高くなります。
ここでは、坪単価の地域性を
- 土地を購入しないで家を建てる場合
- 土地を購入して家を建てる場合
に分けて考えていきます。
建築費(万円) | 建坪(坪) | 坪単価(万円) | |
全国 |
3,533.6 |
37.63 |
93.9 |
首都 |
3,808.5 |
37.48 |
101.6 |
近畿圏 |
3,741.5 |
38.53 |
97.1 |
東海 |
3,606.3 |
38.26 |
94.2 |
その他地域 |
3,355.9 |
37.35 |
89.8 |
引用:住宅金融支援機構2020年度フラット35融資利用者調査
URL:https://www.jhf.go.jp/about/research/2020.html
※坪数は床面積(m²) × 0.3025により算出(小数点第2位切り捨て)
※坪単価は建築面積 ÷ 建て坪により算出(小数点第2位切り捨て)
上記の表は、住宅金融支援機構が2020年度に行った調査をもとに、注文住宅の坪単価の相場を算出したものです。
建て坪は地域ごとに差があまりありませんが、坪単価は首都圏が「101.6万円」と高く、全国が「93.9万円」と低い結果になっています。
建築費(万円) | 建坪(坪) | 坪単価(万円) | |
全国 |
2,961.2 |
33.6 |
88.1 |
首都 |
2,851.8 |
32.0 |
89.1 |
近畿圏 |
2,884.4 |
33.6 |
85.7 |
東海 |
3,112.2 |
34.7 |
89.6 |
その他地域 |
3,016.3 |
34.2 |
88.1 |
引用:住宅金融支援機構2020年度フラット35融資利用者調査
URL:https://www.jhf.go.jp/about/research/2020.html
※坪数は床面積(m²) × 0.3025により算出(小数点第2位切り捨て)
※坪単価は建築面積 ÷ 建て坪により算出(小数点第2位切り捨て)
土地を購入しない場合よりも土地付きの注文住宅を購入するほうが、坪単価が低くなっています。特に首都圏では、土地から購入するほうが建物のみの購入のときよりも、坪単価が12万円程度もおさえられています。
土地代に費用がかかると、そのぶん建物の費用はおさえる傾向にあるようです。
施工業者の違い
坪単価は、どこに施工をお願いするかでも大きく異なります。
一般的には、施工業者ごとの坪単価は
- 大手ハウスメーカー:70万円以上
- 工務店:50万円以上
といわれています。
引用:住宅産業新聞社 https://www.housenews.jp/
ハウスメーカーは工務店よりも坪単価が高くなりがちですが、建材や設備機器がハイグレードな傾向にあり、工事管理が徹底しているなどのメリットがあります。工務店は、基準が独自で品質がばらつくケースもありますが、ハウスメーカーに比べると価格を抑えられるのがメリットです。
施工店ごとに坪単価は異なりますが、それぞれに「得意分野」や「特徴」が違うので、坪単価だけで判断するのは十分ではありません。
施工店の選び方は、自分が「何を求めるか」によって変わってきます。坪単価だけにとらわれることなく、自分の優先順位をはっきりさせることが大切です。
ハウスメーカーの坪単価
大手のハウスメーカーは、建材や設備をもともとハイクオリティなグレードに設定していることが多いため、坪単価は工務店などに比べて高くなります。
しかし、ローコスト住宅を建てるハウスメーカーを選んでも、オプションをつけると逆に高くなってしまうことがあるため注意が必要です。
ハウスメーカーは価格が高い分、工務店よりも材料や工事品質が整っており、アフターメンテナンスも手厚いことがほとんどです。ブランド力や安心感を重視するなら、ハウスメーカーに依頼するのがよいでしょう。
工務店の坪単価
工務店は地域密着で施工可能なエリアが限定されている場合がほとんどです。坪単価も比較的安価なので、大手ハウスメーカーの7割程度の金額があれば、同じ設備の住宅が実現できるといわれています。
工務店は、高額な広告宣伝費や人件費のマージンを上乗せされることが少なく、原価に近い金額で家づくりを行えます。施工上の制約も少ないので、材料に融通が効くのも特徴です。
コスパやフットワークの軽さを重視するなら、工務店で家を建てるのがオススメの方法です。
構造の違い
坪単価は、住宅の構造でも差が出ます。
住宅の主な構造は3つで、それぞれの坪単価の相場は下記のとおりです。
- 木造:57万円程度/坪
- RC造(鉄筋コンクリート造):83万円程度/坪
- 鉄骨造:86万円程度/坪
RCや鉄骨造は、材料費や人件費が木造よりも高くなるため、坪単価もあがります。しかし、木造に比べて広々とした空間を実現でき、耐用年数も高いのが特徴です。
まとめ|坪単価はあくまで目安として考えよう
今回は、坪単価の基本的な考え方や計算方法、費用をおさえる方法などを解説しました。
坪単価の計算方法はシンプルですが、内容にどのような費用が含まれているか詳細に決まっているわけではありません。坪単価は、「どの会社で家を建てるか」「どのような家にするか」で変わってきます。
坪単価を見るときは、坪単価に何が含まれているのか、設備グレードはどの程度なのかなどをチェックするようにしましょう。
坪単価は、あくまで「予算を考えるときの目安」です。家づくりをするときは、坪単価だけで「住宅の価格が適切かどうか」を判断せずに、自分にあった信頼できる施工店を選ぶことも重視してくださいね。
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