「相続まで待てない!」なら、生前贈与で先手必勝?落とし穴に注意

提供:株式会社朝日新聞社/©赤ネコ
この人に漫画を書いてもらいました赤ネコ(弁護士・漫画家)

マルチクリエーター。イラストやキャラクターデザイン、漫画・シナリオ制作。著書に『Constitution girls 日本国憲法』(PHP)『司法修習QUEST~弁護士になるまでに』(新書館)『法律擬人化! 赤ネコ式六法全書』(マイナビ出版)など。第二東京弁護士会所属。赤ネコ法律事務所所長(この名前の法律事務所は実在します)。第二東京弁護士会仲裁センターあっせん人。

弁護士兼マンガ家の赤ネコさんの漫画を通し、「相続のイロハ」を学ぶ『教えて!ソーゾク博士』。今回のテーマは「生前贈与」です。年110万円まで非課税になるからといって、無計画に生前贈与を繰り返すと、落とし穴にはまる恐れも…。

生前贈与で遺産相続を出し抜ける?

©赤ネコ

将来の相続について、遠慮なく親子で議論するようになった朝日家。

そんな中、青治さん(50代)は「大切な話だけど、僕が死んだ後の話ばかりされてもなぁ…」と少し複雑な気持ちでいます。

そんな父親のモヤモヤを察知した長女の桃さん(20代)。「相続と言っても、何十年後の話よね。私はもっと早く遺産をもらたいのに!」と常々思っていただけに、「これはチャンス」と青治さんに、こう提案します。

「それなら生前贈与だよ、お父さん!!」

さっそく朝日家顧問のソーゾク博士に相談すると、「生前贈与は年110万円まで非課税です。生前贈与を毎年すれば、青治さんが亡くなったときの遺産総額を減らせるので、相続税を減らすためにも有効ですね」と聞き、桃ちゃんはがぜん、その気になっています。

さらに、桃さんはたくらみます。

「毎年110万円を私だけもらって、遺産を減らしちゃえば、お兄ちゃんに渡す遺産を大幅に減らすこともできるんでは?生前贈与、最高じゃん」

さて、そんなおいしい話はあるのでしょうか。

生前贈与で、相続税の対象となる遺産を減らせる

©赤ネコ

まず、生前贈与のキホンを押さえましょう。

生前贈与は110万円まで非課税

生前贈与には、贈与税がかかります。ただし、ソーゾク博士が桃さんに説明した通り、年間110万円までは非課税となります。

例えば、桃さんが青治さんから2023年に110万円をもらえば、贈与税はかかりません。一方で、母親の朱美さんからも、それとは別に30万円を生前贈与してもらえば、もらった金額は合計140万円になるため、超えた30万円分に贈与税が発生します。

贈与税を申告し、支払うのは、財産をもらった人です。なお、生前贈与は配偶者や子ども以外の人にもできます。孫や内縁の妻、友人にだって可能です。

生前贈与は相続税対策になる

生前贈与は相続税対策に有効です。

青治さんに現在、1億円の遺産があったとしましょう。

桃さんに30年にわたって100万円の生前贈与を続けたとします。すると、青治さんが亡くなった時には生前贈与した分、遺産を7000万円まで圧縮できているので、相続税の支払いを減らすことができます。

また、遺産がたくさんある方は、非課税枠の110万円にこだわらず、贈与税を払ってでも生前贈与をした方が、相続税を払うよりも得するケースがあります。生前贈与をどんどんすることで、相続税の最高税率55%で課税される遺産を削ることができるためです。少し複雑な計算が必要になりますので、税理士に相談してみて下さい。

「7年ルール」

ただし、注意が必要です。2024年1月1日以降に生前贈与したお金は、7年以内に相続が発生した際、その贈与はなかったものとして相続税を計算します。

例えば、桃さんに2025年から2029年の5年間わたって毎年110万円を贈与した後、2030年に青治さんが亡くなったとします。すると、これらの贈与はなかったこととされ、相続税の対象となります(厳密には一部控除あり)。

なお、2023年末までに贈与した分については、このルールの期間は「3年」が適用されます。2023年度の税制改正大綱で見直しがありました。

無計画な生前贈与にはリスクも

生前贈与についての注意点を解説します。

贈与契約書で証拠を残そう

生前贈与は「口頭」だけでも成立します。

ただし、口約束だけだと相続が発生した後、被相続人は亡くなっているので生前贈与があったことの証拠を示すことが難しくなります。そこで贈与契約書を作成しておけば、万が一、相続税の税務調査にあったときに、きちんとルールに沿った生前贈与をしていたことを証明することができます。

老後の必要資金の確保が優先

生前贈与が相続税対策になるからといって、生前贈与を無理にすれば「老後のお金が足りない」との事態に陥ったら元も子もありません。

将来の介護や医療、自宅リフォーム、住み替えなども視野に入れながら、老後資金の計画を立てる必要があります。その資金を確保できるめどがたってからの相続税対策です。対策の順番を間違えないようにしましょう。

生前贈与は「遺産の前渡し」に過ぎない

桃さんの「生前贈与で、お兄ちゃんを相続で出し抜く」という謀略について、検討しましょう。

青治さんが現在、5000万円の資産があると仮定します。100万円の生前贈与を桃さんに30年続け、相続発生時には遺産が2000万円まで減っていたとします。桃さんは兄の葉介さんに「公平に半分に分けましょう」と提案するつもりです。これを、葉介さんが承諾すれば、桃さんは生前贈与もあわせ計4000万円を受け取れることになります。葉介さんは1000万円です。

しかし、桃ちゃんの思惑通りにはいかないでしょう。

そもそも桃さんは「生前贈与と相続は別の話し」との前提で考えていますが、間違っています。生前贈与は「遺産の前渡し」であり、相続時には、この前渡し分が持ち戻しされます。上記の事例で言えば、青治さんの相続財産は桃ちゃんに生前贈与していた3000万円が相続財産に持ち戻され、遺産は計算上5千万円とみなされます。従って、葉介さんと半分ずつ分けるのであれば、2500万円となります。

そうなると、実際に手元にある資産は2000万円でしたので、500万円足りません。その分、葉介さんが桃さんに支払いを求めるかもしれません。また、葉介さんには、主張すれば最低限の遺産をもらえる「遺留分」と呼ばれる権利があります。生前贈与で、この遺留分を侵害していれば、大きなトラブルに発展する恐れがあるので注意が必要です。

まとめ|生前贈与は計画的に!税理士に相談を

「生前贈与、最高じゃん!」と桃さんは思いましたが、世の中にそれほどおいしい話はありません。

確かに、生前贈与をうまく活用すれば、相続税対策になります。しかし、老後資金の確保も含め、しっかりとした計画が必要です。

そもそも遺産が基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)以下であれば、相続税はかかりません。また相続税といっても、基礎控除を超える部分が1000万円以下であれば、税率は10%です。様々な特例や控除もあります。それらをすべて検討した上で、本当に生前贈与をする必要があるのか検討する必要があります。

わからないことがあれば、税務のプロである税理士に相談することをおすすめします。

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