マルチクリエーター。イラストやキャラクターデザイン、漫画・シナリオ制作。著書に『Constitution girls 日本国憲法』(PHP)『司法修習QUEST~弁護士になるまでに』(新書館)『法律擬人化! 赤ネコ式六法全書』(マイナビ出版)など。第二東京弁護士会所属。赤ネコ法律事務所所長(この名前の法律事務所は実在します)。第二東京弁護士会仲裁センターあっせん人。
弁護士兼マンガ家の赤ネコさんの漫画を通し、「相続のイロハ」を学ぶ『教えて!ソーゾク博士』。今回のテーマは「相続放棄」です。故人が借金を残したとき、借金の相続を相続人が放棄すれば、すべての問題は解決されるのでしょうか。
目次
相続財産には「マイナスの財産」も含まれる
©赤ネコ
相続に興味津々の朝日家の桃さん(20代)は、父の青治さん(50代)が亡くなった後に「自宅とお金の両方をもらおう。いくらあるかな~」と皮算用ばかりしています。
そんな桃さんに、朝日家と親しくしている相続のプロフェッショナルであるソーゾク博士が「マイナスの財産を考慮してますか」と忠告します。
「マイナスの財産?」
首をかしげる桃さんに、「借金のことですね。財産を相続すると、マイナスの財産も相続することになります」とソーゾク博士。
「えっ!」と目が点になる桃さん。青治さんに尋ねると、「住宅ローン」「自動車ローン」「教育ローン」「お母さんからお小遣いの前借り」と出るわ、出るわ。「これを、私が返すの?」と桃さんは青ざめます。
「どうすればいいの! ソーゾク博士!!」
相続放棄すれば「プラスの遺産」も放棄…!決断は一度きりなので慎重に
©赤ネコ
泣きつく桃さんに、ソーゾク博士は「相続放棄をすれば、借金を引き継ぐ必要はありません」とアドバイス。桃さんは「な~んだ、借金は放棄して、家はもらえばいいのね」と思いつきますが、そんな都合のよい話はあるのでしょうか。
桃さん、残念。答えは、ノーです。
相続放棄をすると、マイナスの財産だけを放棄できるのではなく、プラスの財産も放棄しなければなりません。
相続放棄は、権利があることを知った日から3ヶ月以内に手続きが必要
相続放棄は「自分に相続する権利があることを知った日から3カ月以内」に手続きを家庭裁判所でしなければなりません。3カ月を過ぎると、マイナスの財産も含めて相続することを認めたことになります。
一度相続放棄をすると、撤回はできません。一度きりの決断です。また、相続放棄をするかどうかは、相続人それぞれの判断です。例えば、桃さんが相続放棄をしても、兄の葉介さん(30代)は相続するという判断をしても何の問題もありません。
相続を放棄するときは、財産調査と相続順位の確認をしておこう
では、どのように相続放棄を判断すればよいのでしょうか。
基本的に、プラスの財産とマイナスの財産を比べ、「プラスの財産の方が多ければ相続」「マイナスの財産の方が多ければ相続放棄」を選択するとよいでしょう。この比較を間違えないためにも、財産調査は重要と言えるでしょう。
注意したいのは、相続放棄によって故人の借金が消えるわけではないということです。借金の返済は、次の順位の相続人に引き継がれます。当然、借金の取り立ても、その人たちに来ます。もし相続放棄をした人が事前に説明や相談していなかった場合、他の相続人にとっては「聞いてない!」となり、親族トラブルに発展する恐れがあります。
故人が「団体信用生命保険」に加入していれば、契約していた住宅ローンの残高はゼロに
ちなみに、マンガの中で、桃さんが住宅ローンが残されることに頭を抱えていますが、それほど心配しなくてもよいでしょう。
住宅ローンには、契約者が亡くなるなど万が一のことがあったときに残高がゼロになる保険「団体信用生命保険」(団信)を契約している場合が多いためです。ただし、もしも桃さんの父・青治さんが団信に加入していない場合、住宅ローンは桃さんら相続人に残されます。
限定承認という方法もあるが、利用はわずか
さきほど、「相続するならプラスの財産もマイナスの財産も相続しなければならない。一方で、相続放棄すると両方とも放棄しなければならない」と説明しました。実は、もう一つの相続のやり方があります。「限定承認」と呼ばれるもので、「プラス財産の範囲内でマイナス財産を引き継ぐ」ことができます。
例えば、500万円の借金と100万円の時計が相続財産として残され、借金は引き継ぎたくないけど、時計を故人の形見として残したいという場合に活用できます。プラスの財産は競売にかけられますが、相続人が優先的に買い取れる権利を使って、その時計を100万円で買い戻します。
ただし、限定承認には「相続人全員での手続きが必要」「手続きが複雑」「譲渡所得税が課税されることがある」というデメリットがあり、実際の利用件数は多くはありません。
まとめ|期間はわずか3カ月!悩んだら弁護士に相談を
一言に相続放棄といっても、3カ月以内に、相続財産を正確に把握して相続放棄をするかどうか判断し、必要書類をそろえて裁判所に手続きする必要があります。また、親族トラブルを避けるためには、他の相続人への説明や相談も必要になるでしょう。相続放棄について悩みがあれば、相続に詳しい弁護士への相談を検討してみて下さい。
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