マルチクリエーター。イラストやキャラクターデザイン、漫画・シナリオ制作。著書に『Constitution girls 日本国憲法』(PHP)『司法修習QUEST~弁護士になるまでに』(新書館)『法律擬人化! 赤ネコ式六法全書』(マイナビ出版)など。第二東京弁護士会所属。赤ネコ法律事務所所長(この名前の法律事務所は実在します)。第二東京弁護士会仲裁センターあっせん人。
弁護士兼マンガ家の赤ネコさんの漫画を通し、「相続のイロハ」を学ぶ『教えて!ソーゾク博士』。今回のテーマは、認知症に伴う財産管理についてです。
目次
親が認知症になったら、親のお金を使えばよい?
©赤ネコ
「あれがないんだけど、知らない?桃ちゃん」
「あれって何よ、お父さん」
「あれだよ、あれ。ほら、あれ。うーん・・・」
朝日家の青治(せいじ)さん(50代)は探し物があるのですが、名前が出てこないようです。こんな父親の姿を見て、長女の桃ちゃん(20代)は「ひょっとして認知症の兆候では?」と思っています。
少子高齢化が進むなかで、認知症の親の介護は大きな社会課題となっています。でも、桃ちゃんはどこか楽観的です。
「親が認知症になったら、親のお金を使って介護すればいいんでしょ。そのお金で施設に入ってもらえばいいわけだし。会いには行くからね」というわけです。
そんな桃ちゃんに、友人の弁護士・ソーゾク博士は「甘いですよ」とピシャリ。どういうことでしょうか?
認知症になると、預金口座が凍結される恐れアリ
©赤ネコ
「認知症になると、親の銀行口座が凍結される恐れがあります」
ソーゾク博士の説明に「親のお金を親の介護のために使えないのはおかしい!」と桃ちゃんは納得できません。
しかし、これには正当な理由があります。銀行としては預金の引き落としは、名義人本人の意思があることが前提となります。一方、認知症の症状が重くなると、本人の意思が確認できなくなってしまいます。
不動産も同様で、青治さんが認知症になると、青治さん名義の不動産を売ることはできません。不動産会社としては本人の意思が確認できないまま売買契約を進めることはできないためです。
また、自分が生きているうちに財産を渡す生前贈与も、贈与者の「あげる」、受贈者の「もらう」の合意が必要となるため、認知症になるとできません。
なお、2021年に全国銀行協会が「本人の判断能力が低下・喪失していても、本人の医療費など、本人の利益に適合することが明らかな場合には、親族などからの払い戻しの依頼に応じうること」という旨の方針を示しました。
ただ、あくまでも指針であって、個別の金融機関が応じてくれるかどうかはわかりません。使途も限定されますので、親が元気なうちに備えておくことが重要なのは変わりありません。
認知症になると、相続にも影響する
親が認知症になると、遺言書を作成することができなくなります。
認知症の症状が進行してから、青治さんが慌てて遺言書を作成したとしても「遺言するのに必要な判断能力が低下した状態」とみなされる恐れがあります。桃ちゃんに有利な遺言内容だった場合、「この遺言書は、お父さんが認知症のときに作成されたから無効だ」と、桃ちゃんの兄・葉介さん(30代)が訴えるかもしれません。
このような状況で裁判になっても、葉介さんが青治さんの認知症だった証拠を示すことができなければ、遺言書が無効とされることはないでしょう。とはいえ、争いの種はなくしておきたいので、元気なうちに遺言書を作成するのが大事です。
また、認知症になった青治さんが財産をもらう側(相続人)となる場合にも問題が生じます。亡くなった人の遺言書がない場合、遺産の分け方を相続人全員で話し合って合意する必要があるのですが、認知症の人がいると、その合意が無効になってしまうためです。
成年後見や家族信託も検討を
「認知症になる前に、お父さんに遺言書を作成してもらう大切さはわかったけど・・・」と桃ちゃん。遺言書は亡くなった後の話なので、認知症の親が生きている間に、親のお金を介護のために安心して使うことができる方法を知りたいと思っています。
すると、「成年後見や家族信託などを活用する手があります」とソーゾク博士。聞き慣れない言葉に、桃ちゃんの頭には「はてなマーク」が浮かび、ぽかんとしています。
本人が認知症になった後に他の誰かがお金を管理できる「成年後見」
「成年後見」とは認知症などで判断能力がない人をサポートする制度です。万が一、青治さんが認知症となって口座が凍結されてしまった場合でも、成年後見人が、青治さん名義のお金を管理できるようになります。
ただし、成年後見人が誰になるかは家庭裁判所が決めるため、桃ちゃんが手を挙げても必ず成年後見人になれるとは限りません。また、青治さんの財産を現状維持することが原則となるため、損害が生じるような資産運用や生前贈与のような使い方はできません。
本人が元気なうちからお金の管理者を指名しておける「家族信託」
成年後見は認知症になってからの対処ですが、青治さんが元気なうちに資産凍結リスクに備えることもできます。その一つの方法が、「家族信託」です。
家族信託は、あらかじめ自分の預金や不動産を信頼できる家族に託し、認知症になった後の管理・処分を任せることができる仕組みです。
朝日家の場合、青治さんが「自分が認知症になったら、桃ちゃんに財産の管理を任せる」といった契約を桃ちゃんと結ぶことができます。成年後見ではできなかった資産運用や生前贈与を桃ちゃんに任せることも、契約内容によっては可能です。
認知症に伴う財産管理は弁護士や司法書士に相談を
認知症に伴う財産凍結のリスクや、その対処法についての説明を聞いて、「難しそうだけど、なんとなくわかった!」と納得顔の桃ちゃんに対し、「最後に・・・」とソーゾク博士は話を続けます。
「大切なのは、事前に家族で話し合い、合意を得ながら進めることです」
たとえば、青治さんが認知症になった後のお金の管理を桃ちゃんに任せるような家族信託を結んだ場合、事前に葉介さんの合意も得ていたほうがよいでしょう。青介さんの知らぬ間にそんな契約が結ばれていたら、葉介さんも納得できないかもしれません。
認知症に伴う財産管理の対策としては、生前贈与から遺言書の作成、家族信託など様々な方法があり、それぞれにメリットもデメリットもあります。
しかし、一般の人にはその仕組みを理解するだけでも難しく、自分たち家族にとって最適な方法が何かについて判断するのは容易ではありません。利用のための手続きも煩雑であるため、弁護士や司法書士ら専門家に一度相談してみることをお勧めします。
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