劇的ビフォーアフターの匠が教える、失敗するリフォームと注文住宅


朝日放送テレビ「大改造!!劇的ビフォーアフター」に出演している匠であり、数々の注文住宅やリフォームを手掛けてきた渡辺ガクさんへのインタビュー後編をお届けします。

この記事では、なぜ注文住宅やリフォームで失敗するのか、失敗事例と失敗しないための家づくりのコツ、家づくりをするうえで最低限知っていてほしいことをお伺いしました。

<渡辺ガクさんのプロフィール>
一級建築士。1971年岩手県盛岡市生まれ。93~2007年瀬野和広+設計アトリエに在籍し、設計チーフとして40以上のプロジェクトを統括。2007年にg_FACTORY 建築設計事務所設立。現在、東洋大学ライフデザイン学部非常勤講師。ビフォーアフター大賞「空間アイデア部門」1位受賞。

動線や周辺環境を考えないと後悔も。匠が見てきた失敗事例

──家を建てたあと、住人が失敗だったと感じるのはどういった時でしょうか。匠が見てきた家づくりの失敗事例を教えてください。

渡辺 「この位置にトイレはない方が良かった」「洗面所が混雑する時間帯は奥の部屋に入れなくなって後悔した」のような、動線に関する失敗事例は良く聞きます。

家づくりを検討し始めた方は、(家全体より)デザインや機能といった部分が気になってしまうことが多いです。「キッチンが不便だからこうしたい」「こんなお風呂にしたい」とか。専門家ではないのでそう考えるのも仕方ないのですが、動線よりも機能やデザインを重視してつくる家は大抵失敗します。

やはり、「キッチンで料理を作っているときに手が空いたら脱衣場に行き洗濯ができる」ような、心地よく生活できる家事動線は重要です。それにキッチンやお風呂は消耗品。いつか取り換える必要があります。しかし間取りは簡単に取り換えられません。はじめに間取りや動線をきっちり考えないと後悔するでしょう。

ただし対象の部屋だけの動線・間取りを重視するのも良くありません。僕たち専門家は、全体を見ながら家づくりの計画を立てます。

──全体を見ながらとは?

渡辺 周囲の環境や近隣の家との兼ね合いも重要です。方角と間取りだけを見てリビングに大きな窓をつけても、窓の向こうは隣家の壁というケースもあります。みんな南側に窓をつけたがりますが、周囲の環境によっては東に窓をつけたほうが、日が入り快適に過ごせることもあるのです。

また日当たりが良い場所に窓を作っても人通りが多く、周囲の目が気になり結局いつもシャッターを閉じることになったケースもあります。東京のような住宅密集地の場合、1階は日が入りにくいのでリビングを2階にするなど、周囲の関係によって間取りを大きく変える必要もあります。家は草原の中にポツンと建てるわけではありません。動線のほか、周辺環境に合わせた家づくりが重要です。

それに家を建てるときはお子さんが小さい方が多いのですが、成長すれば受験シーズンが来ます。吹き抜けだとテレビの音が気になるかもしれません。例えば吹き抜けを一時的に防げるような、フレキシブルに対応できる間取りは必要だと思います。現時点の状況だけではなく、家族構成やライフスタイルの変化を想定してつくるのが大事です。

──後悔しない家にするには、動線や周辺環境、間取りの柔軟性が大切ということですね。

渡辺 ただやはり、キッチンやダイニングに人が集まるということは変わらないと思います。そして、人が集まる場所を居心地の良い空間にすることが一番大切です。

昔のようにリビングで夕飯を食べたあと家族でテレビを見る、という生活スタイルは崩壊しつつあります。今、家族が集まるのはご飯を食べるときぐらいで、あとは手元のスマホで動画を見たり、自室で過ごすという家庭も多くなりました。だから家族の時間を大切したいなら、家の中心になるダイニングやキッチンを充実させてください。

動線を考えることが出来たら、次はそこに何を置くのかを考えるのも大切です。僕はよく「ダイニングのイスは良いものにしましょう」とお客様に提案しています。ダイニングのイスってプラスチックや硬いものが多いじゃないですか。長時間くつろぐための椅子ではありません。だからクッションがあって背もたれが付いていて、そこでくつろげるようなイスがあると人が集まりやすく、寛いだ時間を過ごせると思います。

全て同じイスじゃなくて良いのです。色合いだけ統一して、家族それぞれが好きなイスを選べば良い。これは前回お話しした「おしゃれに魅せる家づくり」にも関連しますが、家族の個性がにじみ出たほうがおしゃれな家になって愛着が湧くと思います。

そして、そういった家を居心地の良い家と思えるのではないでしょうか。

匠が実践している家づくりの流れとは。予算と理想の両立方法

──家づくりは高額なのでできるだけ予算を抑えたいけれど、妥協すると後悔するのでは、という声も多いですよね。失敗しない家づくりと予算を両立させるにはどうすれば良いでしょうか。

渡辺 僕の場合、大抵のお客様は夢が膨らみすぎて予算を超過してしまうので、そこから減らしていく作業をします。

ある程度予算は超えることを覚悟してもらい、理想の家の見積もりを作って「やっぱりオーバーしたからどこを減らしていこうか」と考えるのがスタート地点。考え直してもらい「ここは絶対必要」「ここは必要ないかも」と優先順位をつけて、着地点を考えていきます。

時間はかかりますが、この方法で家づくりをしたお客様の満足度は高いです。逆に予算だけ見てつくった方は満足せず、どこかに不満が残る印象があります。

あくまで見積もりなので、まずは住みたい家の見積もりを作ってほしいと思います。高くてもそれで契約するわけではありません。お客様はある程度現実がわかるし、僕たち専門家はどこにどのくらいの金額がかかるのか、どうすれば予算を下げられるのかをきっちりと解説できます。

住宅メーカーと良い点も悪い点も共有して進めたほうが思い描く家がつくりやすいので、はじめは理想を語って、その後予算に合わせて変化させていく流れが大切だと思います。はじめから低空飛行しない方が良いですよ。

──はじめはしっかり理想を描いて、そこから現実に当てはめていく方が後悔しないという事ですね。ちなみに渡辺さんの場合、具体的にどういう流れで家づくりを進めますか?

渡辺 僕の場合はヒアリングシートを用意していて、ソフトの部分とハードの部分を聞きます。ソフトの部分はどんな音楽を聞いているのか、趣味、好きな食べもの、暮らし、生活習慣などいろいろなことを聞きます。

ハードの部分は具体的にどんな家にしたいのか、どんなリビングにしたいのか、キッチンはオープンが良いのかといった具体的な内容です。

このヒアリングシートは、奥さまやご主人だけではなくて、ご家族全員で相談して書いてくださいとお願いしています。家づくりの最初は大抵、みんな全く違うことを考えているので、初期の段階で話し合い、どんな家にしたいのかを洗い出してほしいのです。

最初の段階で寝室とは別に書斎が必要か、キッチンはメインで使う方が好きに決めるのか、という方向性を決めておくと後々の家族間のトラブルは少なくなると思います。

──好きな食べものや趣味など、家づくりに直接関係のないことも聞くのですね。

渡辺 赤か白か、どちらが良いですか?という聞き方ではすぐに判断できません。そこで雑談がてらいろいろな話を聞いて本音を探るのです。趣味の話や何気ない会話をしていた方が本音が出やすいので。

ほとんどの人は、具体的なイメージが固まっていない段階でお会いします。ホームページを見て「なんとなくおしゃれな家が多かったから相談に来ました」という人が多いのです。

だから趣味や好きなものなどの会話を通して、お客様に「これが好きだったのか」と気づいてもらい、「あなた達にフィットするのはこんな感じですよ」と選択肢を提示するのが僕たち専門家の役割だと思います。

──具体的にソフト、ハードの部分を聞いてどのような家をつくられたのか、事例をお伺いしたいです。

渡辺 僕が主催している「g_FACTORY 建築設計事務所」のホームページで紹介している事例のなかに「繋がりの家」という家があります。この家は、吹抜けによって家族の気配がわかる繋がりや、大きな窓を開放して自然の風を感じ、近隣の方々が気軽に集まれるような土間などをコンセプトに設計しました。

繋がりの家の「繋がり」とは、人と自然、家族と社会、内部と外部など、この家を通してさまざまな繋がりを促す間取りとしていることから命名しています。

──なぜ「繋がり」を重視したのですか。

渡辺 今までそこにお住まいの方ではなく、新たに土地を購入して建てる家族だったため、近隣の方々から孤立せず、繋がりをもちやすい家になればと思いました。

住宅とは個の財産ですが、個だけを誇張すると地域で孤立する場合もあります。住宅であっても「街に対しては公共である」という意識は重要だと考えています。

そのため、こちらが開いていれば自ずと近隣の方々も集まってくるのでは、という考えのもと、近隣の人たちとの繋がりももちやすいようなプランを提案しました。

お金を曖昧にするともめやすい?家づくりの前に考えること・予算の決め方

──はじめから家のイメージは固めておかなくても良いということですが、家づくりのときに、これだけは考えておいてほしい、事前に伝えてほしいことはありますか?

渡辺 「どういう設備の、どういう家にしたいか」までは考えていなくても良いですが、「新しい家でこんな暮らしがしたい」という具体的なイメージがあると進めやすいです。これから子どもが増える予定なのかとか、デリケートな話はこちらから聞きにくいのであらかじめ伝えてもらえると助かります。

あとは、みなさん建築費用だけを考える人が多いのですが、家づくりでは土地代、登記代、引っ越し費用などさまざまな面でお金がかかります。僕らのような建築設計事務所に頼む場合は設計監理費も必要です。5,000万円予算があったとしても全てを建築費には当てられません。

諸経費は大体、建築費の10%くらいを想定すると良いでしょう。もちろんマンションを買う人、土地と家を買う人、家だけを買う人で費用は異なりますが、全体的にいくらかかるのか、総費用は少し勉強し、余裕を持っておいてほしいと思います。

お金の話はみなさん避けたがるので、トラブルになりやすい部分です。僕たちが聞いても金額をハッキリ言う人は少なくて「3,000万円くらい」の「くらい」でもめることも多い。最初は言いづらくてもきっちりと話しておいた方が良いですよ。

──お金はもめやすいですね。

渡辺 なんだかんだ言って、もめ事は「お金」か「時間」のどちらかです。この日までに完成しますと言っても、天候の変化や近隣住宅からクレームが来て工事が止まれば完成が伸びることもあります。屋外での作業ですし、ホコリも音も絶対に出るので、こればっかりは仕方がない。

ただしここで問題になるのが、マンションの更新を控えている人や今の住まいに期限がある人です。伸びると更新料が発生したり、仮住まいを探したりする必要があります。絶対に超過できない期限があれば、事前にしっかり話してほしいと思います。

また近隣から悪い印象を持たれないために、工事の前のあいさつ回りは必須です。ちょっと面倒かもしれませんが、建築業者だけに任せずに住む人自身があいさつをしたほうが良い印象が残せます。近隣にどんな人が住んでいるのか確認もできますし、住んだ後の付き合いもあるので、はじめはしっかり顔合わせをしておくと工事中のトラブルが軽減できます。

失敗しない住宅メーカー選びとは。家づくりは人と人との関係性も重要

──全ての住宅メーカーが渡辺さんのような手順で進めるわけではありません。そこで、住宅メーカー選びのコツをお伺いしたいと思います。

渡辺 基本は自分たちの意見に寄り添ってくれるのか、話を聞いてくれるかどうかだと思います。家はお互いに良い面・悪い面を納得が行くまで伝え合ってつくるので、意思疎通がしっかりできて、信頼できる相手を選ぶと安心できるでしょう。

家は、建てるだけなら半年程でできますが、その後メンテナンスをして30年、40年と付き合っていくものです。それだけ長い期間を付き合っていける住宅メーカーかどうかを意識して選ぶと良いですね。

たとえば疑問に思ったことを問いかけてみて、納得の行く答えが得られるのかを確認してください。相手を信頼できるのかどうか、ひとつの指標になると思います。もちろん、相手を試すような聞き方をしてしまうと信頼関係が成り立ちませんので、コミュニケーションの中でおこなってくださいね。

また、セミオーダー型の住宅の場合は、選べるパターンがどのくらいあるのかもポイントです。断熱性能や耐震性能も各メーカーで異なるため、詳細をチェックしてください。

家づくりで失敗したくないと思ったら、動線や機能を重視するのはもちろん、長期的に付き合っていけるのか、信頼できるのかという住宅メーカー選びも重視すると良いと思います。

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