擁壁のある家のメリット・デメリットとは?後悔しない土地の選び方を紹介

自宅の建築や土地の購入では、平坦な場所だけではなく擁壁(ようへき)がある土地も候補になる場合があります。擁壁付きの土地は眺めや日当たりがいい立地が多い一方で、安全性や維持管理などへの不安を抱えやすい面があります。
便利な特徴がある反面、補修費用や法的な手続きが発生する場合もあり、事前の知識や確認が欠かせません。適切な情報を知らずに擁壁付きの土地を購入すると、あとになって余計なコストやトラブルに直面する可能性があります。
この記事では、擁壁の基本や家を建てる際のメリット・デメリット、安全に暮らすための選び方やトラブルを回避するコツを解説します。擁壁のある家に興味がある場合は、この記事を参考に具体的なリスクとメリットを正しく理解し、後悔の少ない土地選びや住宅計画につなげてください。
擁壁について
急斜面や傾斜地を安全に利用するには、土砂の崩落を防ぐ擁壁が必要です。しかし、擁壁の構造が不十分だと地盤が安定せず、思わぬ事故が起こる可能性があります。きちんとつくられた擁壁ならば高低差を活かした魅力的な環境を手にできますが、それが法的な条件をを守っているかどうかの確認は欠かせません。ここでは、擁壁がどのようなもので、どんな種類があり、つくる際にどのような法律に従うといいのかを紹介します。
擁壁とは
擁壁とは、高低差がある土地で土砂の崩落を防ぐために設置される壁状の構造物です。もともと平坦でない場所を宅地として利用するには、斜面を切り崩したり盛り土をしたりする必要があります。その際、土が崩れないよう支える目的で造られるのが擁壁です。
用途は宅地造成だけではなく、道路や河川の周辺でも採用されます。住宅地における擁壁は、傾斜のきつい場所を利用するための方法の一つで、土地の面積を確保しながら安全性を高められるのが特徴です。
ただし、擁壁が古かったり建てた時に基準を満たしていなかったりすると、ひび割れや傾きなどの不具合が生じる場合があります。施工当時の技術や材料の質によって耐久性が左右されるため、土地を購入する際には目視による劣化の有無や排水機能の状態を確かめることが重要です。
擁壁の種類と特徴
擁壁の種類は、大きく分けてブロック積みや石積み、鉄筋コンクリート造などがあります。ブロック積みは、コンクリートブロックを組み合わせてつくる方法で、比較的施工が簡単な点が特徴です。費用を抑えやすい一方で、基礎部分のつくりや鉄筋の有無によって強度が変わるため、安全性を重視するならしっかりとした設計が必要になります。
石積み擁壁は自然のままの石や正方形や長方形に切った石を積み上げたもので、景観に馴染みやすく歴史のある地域などでよく見られます。ただし、経年劣化が進むと石同士の接合部分に緩みが生じやすいため、点検と補修が重要です。
鉄筋コンクリート造の擁壁は、内部に鉄筋を組み込み、それをコンクリートで固めてつくるので、高い強度があり、大きな土圧にも耐えられます。最近では、工場で製作したコンクリートパネルを現場に組み立てるプレキャスト擁壁も普及し、以前より施工期間を短縮できるようになりました。
擁壁に関わる法律
擁壁には、宅地造成等規制法や建築基準法などの法律が関係します。宅地造成等規制法は、斜面を大きく切り土や盛り土で造成する地域を規定し、一定の工事を行う場合に行政の許可が必要です。この許可を受けたうえで完成後の検査があり、基準を満たすと検査済証が交付されます。
一方、建築基準法では高さ2メートルを超える工作物としての擁壁ががけ条例の対象になり、同様に安全面でのチェックが必要です。古くに造られた擁壁の中には、現在の構造基準を満たさないものもあり、そうした擁壁を改修せず利用していると、資産価値の低下や事故のリスクが高まる場合があります。
購入時点で許可や検査済証が存在しないケースでは、将来的に建築を制限される可能性があるため注意が必要です。法的に適正につくられた擁壁かどうかは、売主や仲介の不動産会社へ書類の有無を確認し、必要に応じて行政に照会することが求められます。
擁壁のある家のメリット
傾斜地を活用した土地は、周囲の眺望や日当たりの面で魅力がある一方、地盤の不安定さを懸念する方もいます。しかし、擁壁がしっかり造成されている土地ならば、高い位置からの眺めやプライバシーを保ちつつ安全に暮らすことができます。ここでは、特に注目される眺望面の魅力や、人目を避けやすいメリット、そして水害をはじめとする災害リスクへの対策としてのメリットを見ていきましょう。
眺望の良さと開放感
擁壁のある家は、一般的に周囲より一段高い位置に建てられるため、遠くまで視界が広がる眺めのいい景色を期待できます。街並みを見下ろすような形になりやすく、天気の良い日には青空や山々が見渡せる開放感を得やすい点が大きな魅力です。視界が広がる分、室内に差し込む日差しを活かしやすく、明るいリビングや部屋を確保しやすいというメリットもあります。
敷地内に高低差がある分、同じ階数の建物でも実際より高い場所に住んでいるような印象を与え、風通しや抜け感を強く感じることも特徴です。高台にいる安心感や優越感が日常に彩りを加え、屋外空間でのバーベキューやガーデニングなども自然と楽しみたくなるでしょう。
プライバシーの確保
擁壁によって高低差が生まれている土地は、道路面や隣家からの視線を受けにくいため、プライバシーが保ちやすいというメリットがあります。平坦な土地だと、道路を通る方や周辺の建物から室内や庭が見えやすく、人目を気にしながら過ごすことでストレスが生じる可能性があります。
一方、擁壁のある敷地は高さを確保しているため、外から直接覗かれにくく、自然に防犯効果も高まるでしょう。さらに、家庭内でカーテンを開けて過ごす時間を増やせるため、日中の採光を最大限に活かして明るく過ごすことにもつながります。道路に面していない高台であれば、気軽に窓を開放しながら換気するなど快適な空間づくりが可能です。
水害リスクの軽減
水害への備えは、住まい選びで見逃せない要素です。低地や川沿いの平坦地では、河川の氾濫や大雨の影響で排水機能が追いつかず、雨水が建物などまで浸水する被害を受けやすい場合があります。擁壁のある土地は周囲に比べて高い位置にあることが多いため、そういったリスクを軽減しやすいです。
雨水が溢れるときでも一段上に建物があれば住宅内部まで浸水する可能性が低くなり、大きな損害を被りにくいメリットにつながります。実際にハザードマップを見ても、高台の地域は浸水想定区域から外れていることが多く、その分、防災上の安心感を得られます。
ただし、水害リスクが低いとはいえ土砂崩れへの警戒は必要です。大雨で地盤が緩むと、擁壁に大きな負荷がかかる恐れがあるため、定期的な点検と修繕が大切です。土砂災害警戒区域に該当する場所では特に注意が必要で、自治体のデータを確認し、危険度を把握したうえで安全対策を講じることが求められます。
擁壁のある家のデメリット
傾斜を活かせる擁壁付きの家には魅力的な面が多い一方で、費用面や地盤の安定性に関する懸念が残ります。古い擁壁の場合、安全基準を満たしていないケースもあり、思わぬ補修費用が必要になる可能性があります。ここでは、そうした不安を払拭するために、代表的なデメリットと対策を見ていきましょう。
費用がかかる
擁壁付きの家を建てる場合、まず擁壁そのものの新設や補修に関する費用がかかることがあります。既存の擁壁が古い基準でつくられていると、改修や建て替えが必要になるケースもあり、その際には数十万円から数百万円に及ぶ工事費用が発生する可能性があります。
また、傾斜地を切り盛りして造成する過程で地盤改良や排水工事が追加されると、平地に比べて建築コストが高くなるでしょう。さらに、擁壁の上部に盛り土が施されている場合、盛り土の圧密や沈下を予防するための追加施工が必要になる場合もあります。
土地の購入前にあらかじめ地盤調査を実施して、予想される工事内容を具体的に把握しておけば、大きく予算をオーバーするリスクを減らせます。初期費用がかさむからといって手抜き工事を行うと、今度は将来的に大規模な修繕が必要となる恐れがあり、結果的に費用負担が増えてしまうリスクが高まるため、注意しましょう。
地盤の補強が必要になる
擁壁付きの土地は高低差を造るために切り土や盛り土を施していることが多く、地盤が部分的に弱い可能性があります。家を建てる際は、まず地盤調査で硬い層がどの程度の深さにあるかを確認し、その結果に応じた補強工事を行うことが重要です。
補強方法としては、地盤を固める表層改良や柱状改良などがあり、場合によっては杭を打ち込むこともあります。これらの工法は一般的な平坦地よりも工事内容が複雑になりやすく、追加費用も見込まれますが、建物の不同沈下を防ぐ効果があり安全な暮らしを守ります。
擁壁のある土地の選び方
擁壁付きの土地を検討する際は、安全性だけではなく将来の維持費や法的な問題など、さまざまな視点で判断する必要があります。見た目がしっかりしている擁壁でも、書類上の許可を受けていないケースやメンテナンス不足の例も見られます。ここでは、土地を選ぶ際に確認しておきたい擁壁のチェックポイントや関係書類の重要性、さらに専門家との連携をどのように活かすかを見ていきましょう。
擁壁の状態をチェックするポイント
擁壁付きの土地を購入する前に確認しておきたいポイントは、壁面のひび割れや傾き、排水機能の有無、そして施工当時の図面と工事記録の整合性です。コンクリート表面に深い亀裂がある場合、地盤に強い圧力がかかっているか、壁自体の劣化が進んでいる可能性があります。
水抜き穴が適切に配置されていないと、雨水が擁壁の裏に溜まり土圧を高める恐れがあります。裏側に排水用の空間が設けられているかどうかも一つの判断材料です。さらに、擁壁がどのような形状と寸法で造られているかを知るため、設計図や写真などの工事記録があれば確認します。実際の寸法と図面が大きく異なる場合、施工段階でのトラブルが見え隠れすることがあります。
目視だけで判断しづらい場合は、土木や建築の専門家に依頼して、水平器での傾き測定やコア抜き検査などを実施することも検討しましょう。
安全性に関する書類の確認
擁壁付きの土地を購入する際には、行政の許可証や検査済証などの書類を必ず確認しましょう。宅地造成等規制法の対象区域内で高さ2メートルを超える擁壁をつくる場合、事前の許可と完成後の検査が義務付けられています。
検査済証があれば、法的に必要な安全基準をクリアしていることになりますが、古い擁壁では交付を受けていない場合もあります。建築基準法上の工作物としての認定を受けているかどうかも重要で、高さ2メートルを超える擁壁は構造計算や鉄筋量など厳しくチェックされるからです。
売主や不動産会社に書類の有無を尋ね、提示を受けた際はその内容と実物の状態を照らし合わせて不審な点がないか確認します。必要な書類が存在しない擁壁は、無許可で築造された可能性があり、後々の改修命令や再建築の際に予期せぬコストがかかる原因になるかもしれません。
不動産会社などの専門家への相談
擁壁がある土地を選択肢に入れる場合は、不動産会社や建築士などの専門家に相談すると判断材料を得やすいです。宅地造成等規制法の適用や建築基準法上の制限など、一般の方にはわかりづらい情報も多いため、不動産会社から地域や物件特有の規制内容を聞いておくと役立ちます。
さらに、擁壁の安全性を専門家が現地調査し、施工当時の基準を満たしているかや改修が必要かどうかを客観的に評価してもらう方法もあります。費用はかかりますが、後から擁壁の欠陥が見つかるリスクを考えれば、事前に専門家の意見を取り入れることは賢明です。
購入前に必要な補修工事がわかれば、価格交渉や予算計画にも反映できます。不動産会社によっては、提携している建築士や土木技術者を紹介してくれる場合もあるため、遠慮せずに相談し、不安を解消してから最終的な判断をしましょう。
擁壁のトラブル例と解決策
擁壁がある土地は、高低差を活かせる反面、所有者や隣地との間で思わぬトラブルに発展することがあります。境界を巡る問題や、崩落事故による賠償責任、再建築の制限など、擁壁ならではのトラブルが存在します。ここでは、その代表的なトラブルの内容と、回避や対処のために取るべき具体的な方法を見ていきましょう。
隣地との境界問題と解決策
擁壁が敷地の境界付近にある場合、どちらの土地に属するのかがあやふやになることがあり、境界紛争につながる可能性があります。古い区画では境界線そのものが明らかに示されていなかったり、登記情報と現場が一致していなかったりするケースも見られます。擁壁が境界を跨いでいる状態であれば、維持管理や補修費の負担割合が不明確になりがちです。
こうした問題を防ぐには、まず土地家屋調査士による測量を依頼して境界を特定することが一番いいでしょう。公式の測量図があれば、擁壁の所有区分も把握しやすくなります。
また、隣地所有者との話し合いの場を持ち、修繕に必要な費用や責任の範囲を文書化しておけば、後々のトラブルを最小限に抑えられます。境界の確定に時間がかかる場合は、仮の協議書を取り交わすなどして、建築計画の遅延や補修の先送りを防ぐことが大切です。
擁壁の崩落による損害賠償責任
擁壁の崩落事故が発生すると、人的被害や隣家の敷地への影響が大きくなる可能性があります。民法では、工作物が崩壊して他人に損害を与えた場合、原則としてその工作物の所有者が賠償責任を負うことが定められています。擁壁が自分の敷地に属しているなら、管理不十分と判断されれば補償を求められるケースが多いでしょう。
特に大雨や地震などで擁壁が崩壊した場合でも、日頃から点検や補修を怠っていたと見なされると、免責されにくくなる可能性があります。このリスクを減らすには、専門家に定期的な安全点検を依頼し、ひび割れや排水不良などの兆候を早期発見する取り組みが欠かせません。
再建築不可と建築制限
擁壁がある土地の中には、道路の接道義務を満たさないなどの理由で再建築不可に指定されているケースがあります。一度家を取り壊すと新築が認められず、増改築も制限される場合があるため、将来的な資産価値が下がるリスクがある点にも注意しましょう。
また、擁壁自体が法律の基準を満たさず、改修が求められると高額な費用負担が発生する恐れもあります。土砂災害警戒区域など災害リスクが高い地域に指定されていると、建物の構造に追加基準が適用されて実質的に建築が困難になる場合もあります。
土地の購入を検討する際は、都市計画図やハザードマップ、役所での法規制情報を確認し、擁壁の構造が現行の建築基準を満たしているかをチェックしましょう。再建築不可物件は通常より安価であることが多いですが、安易に選ぶと住み替えや建て替えで苦労する可能性があるため慎重な判断が必要です。
まとめ|擁壁のある家メリットを活かす賢い選択をしよう
擁壁のある家は、高台の眺望やプライバシーの確保、水害リスクの軽減など魅力的な要素を備えています。一方で、建築コストの増加や地盤補強の必要性、法的な制限など、取り組むべき課題も存在します。
購入前に擁壁の状態や書類の有無をしっかり確認し、専門家の力も借りながら安全面と費用面の不安を解消することが重要です。適切な擁壁が整備されていれば、傾斜を活かした景観や快適性を長く維持できます。
擁壁のある家づくりは、メリット・デメリットを理解し、土地選びから慎重に進めることが大切です。ウチつくの「オンライン相談サービス」なら、家づくりの専門家が無料であなたの疑問にお答えしますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
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